Sunday, April 6, 2014

アメリカと日本の雇用流動性の違いが世の中に与えている影響についてダラダラと考えてみた

日本から来てるエンジニア系の人と話をする時に、よくアメリカと日本の違いで「雇用の流動性」の話をする機会があります(ここでいうアメリカとはサンフランシスコ・ベイエリアの話です)。「雇用の流動性」とは人材がいろいろな企業を渡り歩いている度合いのことで、日本は雇用の流動性が低く、大手企業を中心に一社に留まる傾向にあり、アメリカの場合は常に人が流動している傾向にあります。

日本企業は、会社は可能な限り雇用を維持する代わりに、社員は会社に滅私奉公するという両者が互いに依存しあっている関係であるように見受けられます。アメリカでは、そういう依存した関係を受け入れる人は誰もいません。特にベイエリアのテック系の企業はさながらプロ野球チームのような雇用者と被雇用者で大人な関係を築いている印象を受けます。

この両方の社会の雇用の流動性の差は、それぞれの社会に大きな影響を与えているという印象を受けます。このエントリでは、「雇用の流動性が高い」とはどういう状態なのか?流動性が高いとどういうことが起きるのか?を私なりに考えたことを整理してみます。

(なお、予め言っておきますが、個々に書いてることは特定の企業の話ではなく、社会の傾向がどうなっているかという話ですので、あしからず)

雇用の流動性が高いとはどういう状態?


雇われている側、雇っている側の2つに対して、雇用が流動化した社会において、アメリカの人がどういう風に考えて、行動しているか整理してみます。

雇われている側の意識・行動

  • 会社と社員の関係は日本と比べるとだいぶ大人の関係です。経営環境が変わった場合や評価されなかった場合、いつでも解雇される恐れがあることは承知の上で、求められている期待に答えて報酬をもらう大人の関係です。
    • 日本でたまに見られる「会社にこれだけ奉公してきたのだから、いざというときは会社が守ってくれる」と会社に依存した関係を期待している人は誰一人としていません。全員が自分の待遇・キャリアについて考えています。だからといって、会社と社員が常にぎくしゃくした関係であるわけではありません。基本的にはフレンドリーです。
    • 日本に比べると、本当にあっさりと解雇されますが、失業保険は手厚いですし、日本のように採用時に性別や年齢で差別されることは一切ないため、スキルと職歴さえちゃんとしていれば、よほど不景気でもなければ何歳でも転職可能です。実際に今の勤務先で最近入ってきたソフトウェアエンジニアは50才前後の人です。
    • 将来のキャリアの安定のため、常にスキルアップとキャリア形成に注意を払っています。自分のスキルとキャリアは自分の自由であり、自分の責任です。
  • ポジション(ソフトウェアエンジニアとか、デザイナとか)によって待遇は基本的にほぼ一定です。昇進してもそれほど昇給はしないそうなので、優秀な人ほど、待遇を上げるために違うポジションに移るか、会社を変える人が多いようです。思っている方向のキャリアをゲットするチャンスがあれば、2年で転職することは特に変わったことではありません。
  • 優秀な人は特に会社に所属しているというより、その会社がスポンサーしているプロジェクトに所属しているという意識です。つまり会社に興味があるんじゃなくて自分が何をするかに興味があります。面白いプロジェクトに入るために転職するんであって、○○という会社に入りたいから転職するわけではないのです。

雇用する側の意識・行動

  • 常に一定数の人材は雇用市場に流れており、かつ常に世界中からベイエリアでの技術系の仕事を求めて人が入ってくるので、外から人を取れることを前提に人員計画を立てている印象です。
    • 実際にいつもオープンなポジションに対して応募はひっきりなしに着ているそうで、毎週のように採用面接をしています。
    • パフォーマンスが悪い人を雇用し続けるメリットは全くないし、人は外から取ってこれるので、社員を評価する目はかなりドライです。期待するパフォーマンスが出せない人、言動に問題のある人は、容赦なく解雇するそうですし、雇用契約の時点でいつでもいかなる理由でも解雇できる契約を結ぶそうです。
  • 雇用が流動的なため、優秀な人を定着させるために、社員の満足度を向上させるあの手この手の策を打っています。
    • 社員が快適に働けるようにするため、無料の食事や飲み物を提供したり、フレンドリーな社風にしたり、業務時間中に懇親会をしたり、リラックスできるオフィスづくりを心がけています。
    • 満足度を向上させる方法の一つは「優れたキャリアを形成する機会を提供すること」だと、雇う側は考えている様子です。人事の人が「あなたのレジュメに最高のキャリアを書ける機会を提供する」とか、あるいは同僚が「○○の仕事は素晴らしいから、あなたのレジュメに書けるよ!」みたいな話をしているのをよく耳にします。レジュメを更新するとは、今とは違う次のキャリアを狙っているというニュアンスが含まれているので、日本企業では一般的にやらないと思いますが、ここでは皆が一企業にとどまるという意識がないため、レジュメを更新する話をすることはおかしな話ではありません。

雇用の流動性が高いと社会にどういう事が起きるのか?

(「雇用の流動性が高いとはどういう状態?」がうまくまとめられているか分かりませんが、、、)雇用の流動性が高い社会において、どういうことが起きるのかをつらつらと書いています。

イノベーションが起きる可能性の創出

  • 何か新しいことが生まれる時、それは個人の想像力だけから生まれるわけではなく、色々な人のコラボレーションによって初めて小さなアイディアが拡大生産され、大きな影響力を獲得していくプロセスを取る事が多いのではないかと思います。この色々な人のコラボレーションを担保するためには、人材が流動的であっている必要があり、これが社会に与える一番インパクトが大きいことじゃないかと思います。
  • 優秀な人は特に、常により良いチャンスを求めて、スキルアップ・キャリア形成・人脈の形成をしています。サンフランシスコでは、スタートアップの起業家やVCが集うミートアップがいつも賑わっており、いつも事業のチャンスについて話をする機会や投資を得る機会、スタートアップ主催のミートアップに参加して人脈形成する機会が豊富にあり、良いチャンスを見つけたら、すかさず実行に移す環境が整っているようです。
  • 雇用が流動化していることが前提の社会ですから、成功したスタートアップの創業者などは、前職などで信頼できる仲間を見つけておいて、いざ起業する段階になると、人脈を辿ってほしい人材を素早く獲得して事業を起こしている人が多いようです(WhatsAppの人もだいぶ元Yahoo!の人が関わっている様子ですよね)。実際に、働いているうちに事業アイディアを話して、準備が整ったらうちに来てくれみたいに口説いている人はかなり多いようです。
  • (日本の場合、優秀な人が大手企業でとどまっている事が多く、大手企業からスタートアップに人が大量に移動するような機会はほとんどないんじゃないでしょうか?)。

やり直しがきく社会(ただし、常に自発的にスキルとキャリア形成が出来る人に限る)

まず流動性の低い日本の状況について考えてみましょう。
  • 日本にはある時期を境にやり直しが難しくなる社会になっていると思います。実際には法制度的にはそうではないかもしれませんが、皆が世の中のことを「やり直しが難しい社会」だと思っていることは間違いありません。皆がそう思っている以上、社会はその方向に向かっていきます。
    • 1つ目は新卒採用。新卒でしか入れる機会がない大手企業は多くあると思われます。そういう保守的な起業は、新卒生え抜きを重視する傾向にある会社がまだあり、中途採用で入るのが難しく、入っても待遇面で新卒採用者と大きく差を付けることがあるという噂を聞いたことがあります(本当だったらちょっとひどい・・・)。
    • 2つ目は40代で再就職が難しくなることです。私は求職中の40代ではないので、実体は分かりませんが、年上の人から聞くには40代に入ると途端に再就職が難しくなり、30代で今後のキャリアをどうするのか大きな決断を迫られることになります。
  • こういうやり直しがきかない社会において、企業と社員の関係性にどういう影響を与えると思いますか?私はかなり依存度の強い関係性が生まれると思いますし、実際にそうなっていると思います。
    • 社員は、クビになって世の中に放り出されて、再就職できないことを常に恐れていますから、極度に会社に依存する傾向があり、多少理不尽な要求があっても(長時間労働とか)、それを受け入れ、会社に忠誠心を示すようになります。
    • 会社側は、不景気時でも簡単には解雇しない代わりに、社員にムリを強いる傾向にあると思います。そういう自覚がないにしても、日本とは全く違う社会から日本を覗くと、そういう傾向がはっきりと見て取れます。
次に流動性の高いアメリカの企業(主にベイエリア)について考えてみましょう。
  • アメリカ企業は年齢・性別・人種などで差別されることはないので、スキル・キャリアがしっかりしている人に限っては、理論上、需要の高い職に関してはいつでも何歳ででも職は見つかります。
  • クビになっても、次の仕事を見つけられる社会なので、会社と個人は大人の関係でいられて、ダメだったら次に移ればいいやという大人の関係でいられます。常にドライな関係ではありませんし、お互い自立した個人同士として、自立して仕事できます。日本企業のように労働環境が悪くなることもありません。理不尽な要求もしてきません。

ちょっと、まとめきれていませんが、日本とアメリカの特にベイエリアの雇用流動性に関してつらつらと書いていました。特にアメリカを礼賛するつもりはありません。私は、日本の社会の方が全体的にはうまくいっているという印象を持っていますし、日本の方が好きです。ただし、雇用関係に関しては、各個人がもっと自律した関係でいられる方が双方にとって良いと思っています。ただし、無条件でそういう権利を得られるわけではなく、常に努力し続けることが前提であることは前述のとおりです。

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